日本行動分析学会ニューズレター

J-ABAニューズ
2002年 夏号  No. 28(8月8日発行)


発行 日本行動分析学会 理事長 小野浩一
〒154-8525 東京都世田谷区駒沢1-23-1 駒澤大学文学部心理学研究室内
電子メール: j-aba@komazawa-u.ac.jp
電話:03-3418-9303(心理学研究室事務室)
FAX:03-3418-9126(日本行動分析学会事務局と明記して下さい) 
ホームページアドレス: http://behavior.nime.ac.jp/~behavior/

年次大会直前情報

日本行動分析学会第20回年次大会準備委員会
委員長 河嶋 孝(日本大学)

 暑い夏真っ盛りですが、皆様いかがお過ごしでしょうか? 日本行動分析学 会第20回年次大会は、8月22日(木)から8月24日(土)の3日間、日本大学生 物資源科学部で開催されます。今回の大会は記念すべき第20回大会ということ で、近隣のアジア諸国である台湾、中国、韓国と日本における行動分析学の現 状についての情報を交換し、今後について討論する記念シンポジウムを企画し ています。また、国際的な記念シンポジウムにちなんで、日本文化と海外の文 化の融合としてのシェイクスピア能の講演、さらにはリチャード・スペイツ博 士によるPTSDに関する特別講演が行われます。これらに加えて、恒例の研究委 員会企画シンポジウムと会員自主企画シンポジウムが開催されます。ワーク ショップ3件(応用・基礎・動物トレーニング)と江ノ島水族館見学ツアーは、 まだ定員に余裕がありますが、お早めにご予約下さい。

 発表される方に対するお知らせとして、発表終了までに著作権委譲書と発表 要旨(A4用紙、本文400字以内)を提出して頂きます。著作権委譲書の書式は、 郵便かE-mailに添付してお送りします。発表要旨は各自ご用意下さい。

 口頭発表される方で、パワーポイントをお使いになる場合は、会場にパソコ ンを用意いたしますので、CD-Rやフロッピーに記録されたものをご準備下さい。 MOは使えません。ご自分のパソコンをご使用になるのは、あらためて電源を入 れ直す等の時間がかかりますから、なるべくご遠慮下さい。なお、OHPも使用 できます。詳細については、発表の前日までに大会準備委員会にご相談下さい。 シンポジウム報告者の方も同じです。ポスター発表は、第1号通信では個別発 表することになっていましたが、発表時間を9:30-12:30の間任意としたため、 取りやめとなりましたのでご了承下さい。ポスターは3時間掲示されますが、 発表時間(在席時間)は90分とし、開始と終了の時刻は発表者が当日決めて頂 きます。

 大会発表論文集に訂正がありますので、以下のように修正して下さるようお 願いします。

 湘南の地で、皆様のご来場をお待ちしております。

≪準備委員会HP≫http://homepage2.nifty.com/j-aba20/

年次大会ネットライブ中継のご案内

島宗 理・浅野俊夫(企画委員会)
 今年も年次大会会場より、インターネットライブを配信します。URLは上記 2つを用意しています。

 諸事情で会場にいらっしゃれない方は、ぜひネットにてご参加下さい。また 会員以外でも行動分析学に興味のある方にはぜひお知らせ下さい。

 なお、視聴にはAppleのQuickTimePlayerが必要です。ご使用のパソコンにあ らかじめインストールしておき、上記URLにあるテスト用の動画が視聴できる かどうか確認しておくことをお奨めします。

 配信予定のプログラムは右記の通りです。


シリーズ 現場を行く
第8回 「ひきこもり」のジョブグループの現場から

ファーストステップジョブグループ (First Step Job Group)の提案 上田陽子(ファーストステップジョブグループ代表)

 「不登校やひきこもり」という様に「不登校」とセットで提示されたり、一 時は事件と関連づけて「ひきこもりの青年」が語られたり、また、最近は 「ちょっと、ひきこもって居ましたっ」と軽い調子ででも用いられ、日常用語 になった「ひきこもり」です。援助についてはいろいろな取り組みがあり試行 錯誤されていますが、現在は行き詰まり感さえします。このような現状におい て私が考える援助「ファースト ステップ ジョブ グループ」、それについて 述べてみたいと思います。

 私は、「ひきこもり」の者を身内にもち共に日常生活を送る中で、「ひきこ もり」に関する様々な情報を見聞きする度に、当事者の悩みと援助者側が思っ ている援助との間のズレをつくづく感じます。特に、長期・高年齢(20才代半 ば〜)の場合に。

 今ある援助は、子ども(青年)の「できない部分」に注目し、同じような仲 間の集まりの中で、まず訓練し、身につけ、それから、いざ社会へ、と捉えて いるのが大半のようです。しかし、そうではなく、(勿論それが必要な場合も ありますが、)開かれた社会の中で、今でもできることを、やりながら得てい くこともあると思います。その子なりに、現時点から見て、よりよい方向に向 けどうすればいいか、個別的、具体的に、まず第1歩(ファースト ステップ) を考えることが大事ではと思います。

 当事者の言葉にも「今の自分がイヤだ、働きたい、でもできない、これが最 大の悩み、これにつきる」とあります。また、嘗てたった1回やったアルバイ トの話を嬉しそうに話してくれる仲間の青年や、何気なく呟く「やることがな い」という言葉に含まれる思い等を考えてみると、仕事(ジョブ)の配置が必 要だと感じます。

 しかし、本人の思っている「やりたい仕事」や「やれる仕事」と現実とには ギャップがあります。うっかりすると、よかれと思った仕事でつまずいてしま うということも、よくある話です。しかし、実際に、何かをやってみなくては、 本人も周囲もそのことに気付くとはできません。

 とにかく、ささやかな、やってもやらなくてもいい、いつでもやれる、急に やめてもいい、そのような「ムシのいい仕事」を提供するのが、今、必要な援 助だと思います。そして、そのような「仕事」を提供し依頼し付き合えるのは、 今のところ親しかいないのではと思います。

 更に言えば、いわゆる世間一般に言う「仕事」に就くことを目的に、家庭内 の、仲間内の「仕事」から慣れていこうという事に重きを置くものではなく、 はじめに、今の「ひきこもり」のままで現状のままで、できる「仕事」が現在 の環境にないからこそ、環境に創ってしまう!というものです。スキナーの言 を待つまでもなく、人には与えられる(given)のではなく、自分の方から出 向いて得る(get)、自分の力で得る喜びというのがあります。「仕事」をす るということは、この得る喜びを得るということにもなると思います。

 行動とは個体の属性でなく個体と環境との相互作用である(だから必要なら 環境を創っていく)。グループの立ち上げは、正の強化で維持される行動の選 択肢の拡大を保障する環境設定を実現する(その対象者にとって社会的・金銭 的な強化を受ける随伴性のルールを、まず創ってしまう)といった基本的な行 動的理念や目標に沿った形で、「ひきこもり」に対応していこうというもので す。

 ファースト ステップ ジョブ グループは、そのような趣旨で作る子どもと 親のグループです。ここでは、親が中心となりますが、親が自分の子どもに仕 事を提供するのではなく、ジョブユニットというグループをまず作り、他者の 子どもに提供するという関係の中で、最初の仕事行動を成立させていくことに 特徴があります。

 そこで、私が考えている案を主な項目をあげて以下に記します。

T)仕事
@今のままでできる「仕事」を周りに配置する。 「仕事」として「何かする ことがある」は、単に「することがある」と意味がちがう。

A「仕事」内容は、家事手伝いを〇〇さんの家へ行って「仕事」として請け負っ てやる、というようなもの。

B「仕事」そのものは必然性のあるもの。

C継続的なものでなく1回毎の「仕事」。

(例)「昼間一人で退屈だ。しかし一人では外出できないので付き添いが欲し い」という高齢者の自宅へ行く。この時、「一緒に行く」を「仕事」として 「一緒に行く付き添い代金」を稼ぐ。

D具体的内容は、グループで協議したりアイデアを出しあう。

ジョブユニット
@ 親子3組と親のみ2名(子ども3名、親5名)で。親子だけに限ると単な る交換になる。仕事の数等からこの人数で始めるのが適当と考える。

A なぜ親なのかの理由は先にも記したが、突然の「仕事」拒否、中断など諸々 の事態に対応、「動いた」ことを評価、これらのことを理解し対処できる。

B 自分の子どもでなく他者の子どもをみることになる。他者の目からみた自 分の子・自分からみた自分の子・自分からみた他者の子、この違いにより視野・ 視点の変化も起こりうると考えられる。

賃金
@「仕事」を1つの固まりとして捉える。大きめの仕事、小さめの仕事という ように。

(例)買物に付き合って荷物を運んだ⇒1000円、わずかな時間でできる風呂洗 い⇒500円

A「現金」を手渡す。getする喜びを得る。目に見える喜びである。どんなも のにも変換可能。変換のため外へ出る行動が必要、かつ、促す。

B交通費は依頼者が負担。賃金に添えて支払う。

依頼者の負担増になるが趣旨から考えて妥当と思われる。共に作業をする喜び や、自他にかかわらず子どもが動く(かもしれない)をみる喜びを得ることが できる。

期間
 一応、ユニットの継続期間を3ヵ月を単位としそこで一旦終えて評価・検討 する。修正や継続や撤退を含めて考える。

子ども達にも適切な情報、趣旨の説明。
 「ひきこもり」については、およそ市販されている文献や実践グループなど で勉強してきたつもりです。様々な「理論」や「原因」がそこには語られてい ました。しかし、では具体的にどのような実践が功を奏したかについては殆ど 示されていないのが実情です。大学で行動分析を学び、行動の原理をはじめ、 問題行動への対処、シェイピングやトークンエコノミーといった技法を知りま した。一般に知られる以上に「ひきこもり」という状態は様々です。個別の状 態や状況に合わせた取り組みへの方法としては、行動分析の方法が現在のとこ ろベストではないかと考えています。

「ひきこもり」についてのいろいろな取り組みの中の1つとして、このような 援助設定も考えられるのではと提案するものです。

(ご意見、助言いただけることを願っています。尚この企画に興味のある方、 ジョブユニットに参加していただける方がいたら、ご連絡ください。)



リレー特集
私の好きなこの論文―その9―

小美野喬(明星大学)

 野呂文行さん(筑波大学)からの突然のメールは、J−ABAニューズ、 No.27(前号)の本コーナーを引き受けたので、次号は引き継いでくれるかと の問い合わせでした。これまで本コーナーの文末は次回執筆者の予告で終わっ ているので、野呂さんも執筆内容を想定しながら「フッ」と元同僚の私にお鉢 を廻したのではないかと思います。私にとってこの荷は決して軽いものではあ りませんが、野呂さんは執筆者が応用行動分析の分野に偏向しないように意図 したものと理解して、実験的行動分析という枠組みを選択していく上で、大い なる確立操作となった「論文との出会い」を以下に記してみます。

 私が紹介する論文は、Fantino, E. (1969). Choice and rate of reinforcement. Journal of the Experimental Analysis of Behavior, 12, 723-730. であり、この論文は、1980年代の中頃、慶應義塾大学大学院の先輩 である伊藤正人さん(大阪市立大学)とデンショバトを用いて「選択行動」の 共同研究を行ってきた過程の中で必然的に出会ったものです。この論文では、 先行研究で提唱された選択行動における「対応法則」(matching law)の問題点 を指摘し、「遅延低減仮説」(delay-reduction hypothesis)を前提とした選択 等式としての「遅延低減モデル」を提言し、これを実験的に検証しました。こ の論文で私が注目したのは、選択行動分析の場面に遅延低減仮説を適用し、遅 延低減モデルを導出していく過程の巧妙さについてでした。

 ところで、デンショバトを被験体としたオペラント実験箱による選択行動実 験の典型例では、オペラント箱内の一壁面には2つの反応キー(操作体)があ り、それらの中央、真下の床面にエサ提示口が開口しています。各操作体は、 相互に独立に2つの強化スケジュールで連鎖され、順に初環(第1リンク、選 択反応相)、終環(第2リンク、反応結果相)と呼ばれます。この連鎖スケ ジュールの初環が2つ同時に設定される場面は2選択肢事態を構成し、一方の 選択反応により、それに連鎖した終環に入環し、他方の終環は閉鎖されます。 2つの操作体間において、初環の反応キーはいずれも白色光(付加刺激)が点 灯され、そのもとで等しい値の変間隔(VI)強化スケジュールが設定されます。 終環では、連鎖ごとに各反応キー上には異なる刺激が付加され、実験目的によ りそれぞれ異なる強化率(その他の強化事象としては、強化量や遅延強化時間 がある)が設定されます。終環で1次性強化子(エサ)が提示され、その後、 再び並立した初環に復帰し、以後、このような設定のもとで選択場面が反復さ れます。この選択事態は並立連鎖スケジュールと呼ばれ、終環の付加刺激はエ サの提示によって終了する強化事象の条件性強化子強度を反映し、また、選択 反応は初環における反応によって定義されることになります。 

 Fantino (1969)の研究に話を戻せば、彼は、まず、Autor,S.M.の先駆的研究 に注目します。Autorは、1960年に提出した博士論文『強化頻度および強化確 率の関数としての条件性強化子強度』(この論文そのものは入手不能ですが、 その詳細はAutor(1969)により知ることができます)において、選択行動分析 のための手続きとして先述の並立連鎖スケジュールの有効性を確立すると共に、 「対応法則」を見いだしています。「対応法則」は、2選択肢間に設定される 強化率の相対値(VI強化スケジュールによる相対強化率)が各選択肢への反応 の相対値(相対選択率)と一致することを述べています。

 この「対応法則」についてFantinoは、Autorの設定した並立連鎖スケジュー ルの初環および終環の時間的側面に焦点を合わせ、次の順序に従って、遅延低 減モデルを構築します。

 まず始めに、初環と終環で設定されるVIスケジュールの各スケジュール値に より算出される時間については、初環の開始から終環への入環直前までを初環 の期待時間(expected time)、終環の開始からエサ提示までを終環の期待時間 とします。この視点からすると、「対応等式」は初環の期待時間を考慮してい ないため、直感的に尤もらしさ(plausibility)に欠けると指摘します。終環の 付加刺激が示す条件性強化子の強度は終環の期待時間の値を反映し、短い値は 長い値よりも選好されるが、初環の期待値が長化すれば2値間の選好差は減少 することが予想されるというのがその理由です。換言すれば、「付加刺激の条 件性強化強度はその刺激の提示により一次性強化子提示までの時間が低減する 程度による」と主張します。この主張は「遅延低減仮説」といわれ、モデル構 築上、初環の期待値が不可欠であることを述べています。

 次に、Fantinoは、「遅延低減仮説」を並立連鎖スケジュールに適用し、一 次性強化までの期待時間の総低減量が選択の最も重要な決定因であるとします。 そこで、2選択肢事態で設定される初環の期待時間と終環の期待時間を考慮し、 初環の開始から終環における一次性強化に至るまでの平均期待時間を新たに定 義しています。これをもとに、平均期待時間から各終環の期待時間を差し引い た値(各選択肢の遅延低減値)の相対値は一方の選択肢への相対選択率を予測 するといった「遅延低減モデル」が導出されます。最終段階として、「対応等 式」で説明不能な実験条件を設定し、「遅延低減モデル」の妥当性を実証して います。

 私は伊藤さんとの共同研究において、終環が遅延強化時間の場合「対応等式」 は成立しないこと、さらに、終環の付加刺激条件が条件性強化子強度と関連す ること(Omino & Ito,1993)、また、「遅延低減モデル」を修正すると、終環の 付加刺激条件の差が条件性強化子の感度の差として分析できること (Omino,1993)を示しました。Fantinoの論文は、モデル導出の前提となる「遅 延低減仮説」の持つ時間評価による心理学的距離といったアイデアや、「遅延 低減モデル」を導出する際の論理の明快さに特徴があり、我々の成果は、まさ にこれらを弁別刺激として遂行されたものでした。

 次回は、私の同僚である大石幸二さん(明星大学)にお願いします。大石さ んは、応用行動分析学者として学内・学外ともに高い活動水準を常に維持して います。大石さんと私は研究室が隣接しており、会う機会も多いのですが、本 コーナーで取り上げるような内容を話したことがありませんので、この際、是 非ご紹介ください。

《文 献》
  • Autor,S.M. (1969). The strength of conditioned reinforcers as a function of frequency and probability of reinforcement. In D. P. Hendry (Ed.) Conditioned reinforcement. Dorsey Press.
  • Fantino, E. (1969). Choice and rate of reinforcement. Journal of the Experimental Analysis of Behavior, 12, 723-730.
  • Omino, T. (1993). A quantitative analysis of sensitivity to the conditioned reinforcing value of terminal-link stimuli in a concurrent-chains schedule. Journal of the Experimental Analysis of Behavior, 60,587-594.
  • Omino, T.,& Ito, M. (1993). Choice and delay of reinforcement: effects of terminal-link stimulus and response conditions. Journal of the Experimental Analysis of Behavior, 59,361-371.

    研究室紹介
    立教大学文学部心理学科掘研究室

    白井彩子(立教大学大学院)

     立教大学は1874年、東京築地の外国人居留地にアメリカ聖公会宣教師のチャ ニング・ムーア・ウィリアムズが開いた私塾がその前身で、1918年に池袋に移 転、1990年には埼玉県の新座市にも新しくキャンパスを開校し現在に至ります。 池袋キャンパスは池袋駅西口から歩いて7分ほどのところにあり、正門を入っ てまっすぐ進むとアイビーのつたがからまるレンガ造りの本館、さらに進んだ ところに学食があり、心理学科の研究室があるのは学食の右側に位置する9号 館と呼ばれる建物です。

     9号館には臨床心理学、発達心理学、社会心理学、産業心理学、知覚心理学、 比較認知心理学、学習心理学といった各分野の研究室があり、堀研究室は最上 階である4階にあります。この4階にある研究室が堀研究室だけなのが原因な のか、4年間を通して1、2回しか4階に足を踏み入れたことがないという学生 も少なくなく、一部の学生は4階を称して「謎」と呼んでいます。

     さて、その「謎」に存在している堀研究室の紹介をしていこうと思います。 個性的な人が多い心理学科の中でも特に個性的な(変わった)人たちが集まっ ている堀ゼミには現在M1が1人、学部4年生が1人、学部3年生が3人所属し ています。この5人に、喜怒哀楽をめったに表情に出さないクールな堀先生 (授業などでは

    滅多に感情を表に出さないため、4階とともに堀先生も「謎」と呼ばれていま す……)を加えた6人でゼミは構成されています。人数が5人しかいないため ちょっぴり寂しいですが、そのぶん皆とても仲がよく、定期的に行われる飲み 会では普段は物静かな堀先生もゼミ生と一緒に遅くまで騒ぎ、とても盛り上が ります。堀研究室の他、この「謎」の4階には実験室や飼育室があり、飼育室 ではリスザルとハトが飼育されていますが堀研究室では主にハトを被験体とし た研究を行っています。

     ゼミは学部・大学院ともに週一回あり、学部生は行動分析の基本的な部分を 日本語、または英語のテキストを使用して学んでいます。今年のゼミでは『メ イザーの学習と行動』(ジェームズ・E・メイザー著 磯博行/坂上貴之/川 合伸幸訳、二弊社)をテキストとして使用し、担当者による章の内容紹介のあ と全員によるディスカッションという形で進められています。これとは別に、 4年次に提出する卒業論文にむけての準備も平行して行われています。4年次 の春に実験を開始することを目標に、3年生の秋ごろから各自が興味を持って いるテーマに関する論文を読み始め、随時、堀先生とディスカッションをして いきます。これまで行われた卒論研究のテーマは「刺激等価性の成立過程」、 「ヒトにおける意識性のない運動反応の条件づけ」、「短期記憶への抗コリン 作動性薬物の影響」といったもので多岐にわたります。大学院のゼミでも基本 的に週一回ある授業では文献の講読・ディスカッションを行っています。今年 は獣医の水越美奈さん(P.E.T.S行動コンサルテーションズ)が大学院のゼミ に参加してくださり、犬の躾などにオペラント条件づけの原理がどのように応 用されているかといったことや実際に条件づけの原理を使用している人たちが どの程度基礎的な事項について知っているかといったたいへん興味深いお話を していただきました。

     大学院のほうでも授業とは別に週に一回、2時間程度堀先生とのディスカッ ションの時間があり、私の研究テーマである言語行動について毎週討論を行っ ています。現在はSkinnerのVerbal Behaviorを読み進め、それと平行してメタ ファーに関する討論を行っています。

     ゼミ活動の一環として毎年夏に二泊三日で学部生・院生合同の合宿も行われ ます。この合宿では一人当たり約90分の時間が割り当てられていて、各自の興 味のあるテーマ・卒論の進行状況といったことが発表されます。普段、院生と 学部生が合同で行う授業はいっさいないので、なかなか全員で議論をするとい うことはできないのですが、この合宿では院生・学部生を含めたゼミ生の間で 活発な意見が交換されるため、堀ゼミにとっては貴重なイベントです。

     メンバーが少ないために多少さびしい感じもしますが、比較認知心理学の領 域で研究をなさっている長田佳久先生の研究室にはリスザルを使って選択行動 を研究している神谷直樹さんという頼りになる先輩もいますし、(自称)ニヒ ルでかっこいい助手の長坂泰勇さんはハトの視覚実験をこっそり(本人談)やっ ています。このように、学生の間からは「謎」とされている堀研究室ですが、 入ってみるととてもアットホームな楽しい研究室です。皆さんも怖がらずにぜ ひ遊びにきてください。


    書評
    こんな本を書いた!訳した!読んだ!

    『入門・精神遅滞と発達障害』
    W・ラリー・ウイリアムズ著(野呂文行訳)
    二瓶社 2002年5月1000円(税別)

    野呂文行(筑波大学)

     大学や大学院で応用行動分析学を学び、発達障害のある人たちに対して援助 を実践していきたいと考えている学生さんは数多くいると思います。その中に は、行動分析学の勉強はバリバリやっているのに、発達障害の勉強はあまり熱 心にやっていないという人もいるかもしれません。そのような方にピッタリな のがこの本です。64ページの中に精神遅滞・発達障害に関わる様々な内容が詰 め込まれています。例えば、「精神遅滞・発達障害の人たちが歴史的にどのよ うに処遇されてきたのか」「精神遅滞・発達障害の原因は何か」「21世紀の課 題は何か?」などが書かれています。また精神遅滞・発達障害に関する本では ありますが、著者のウイリアムズ先生は、ネバダ大学で教鞭をとられている行 動分析学の専門家であり、その点でも、応用行動分析学を学び、さらに精神遅 滞・発達障害の勉強をしようと考えている人は、何の矛盾も感じることなく読 み進めることができるのではないでしょうか。

     なお本書は、同じく二瓶社から出版された『入門・問題行動の機能的アセス メントと介入』(ジェームズ・E・カー&デイビッド・A・ワイルダー著/園 山繁樹訳)ならびに出版予定の『入門・知的障害のある個人の権利を守る−人 権委員会の役割と活動−(仮題)』(スティーブ・ベイカー&アミー・テイバー 著/渡部匡隆訳)との姉妹本となっております。あわせてご覧いただければと 思います。


    『心理学が描くリスクの世界−行動的意思決定入門』
    広田すみれ・増田真也・坂上貴之編著
    慶應義塾大学出版会 2002年4月2400円(税別)

    坂上貴之(慶應義塾大学)

     行動の研究、とりわけ選択行動の研究は行動分析学の歴史の中では、比較的 古くからあるテーマである。刺激性制御の手続きに継時弁別と同時弁別の2つ の手続きがあるように、強化スケジュールの手続きにも混成(多元)・混合・ 連鎖・連結の4つの直列型強化スケジュールと並立(あるいは並立連鎖)・共 立という並列型強化スケジュールがある。そして後者のスケジュール群がこれ まで様々な選択行動の研究に用いられてきた。その結果、強化と選択行動との 諸関係を記述・説明するマッチングの法則をはじめとする諸研究、行動生態学、 行動経済学などの新しい分野がはぐくまれてきたのであった。本書において行 動分析学からのアプローチをまとめた井垣竹晴や石井拓が行ってきた最近の研 究も、こうした諸研究と深く関わるものである。

     しかし、選択行動の研究は行動分析学独自のテーマではない。認知心理学、 社会心理学、対人行動学といった、方法論も考え方も行動分析学とは異なる心 理学の中で、このテーマについて、長い歴史を背負った膨大な数の研究がなさ れてきた。そしてその一部は、心理学以外の学問と結び合いながら、意思決定 研究という広い研究領域を構成している。本書の第1の目的は、このような広 いパースペクティブを持ったテーマを、行動分析学を含めた4つの異なるアプ ローチから描き出すことであった。そして、それぞれのアプローチが好んで取 り上げてきた研究を紹介することで、相互に別の角度からの研究を始める機会 を提供することであった。

     第2の目的は、このテーマそのものに広い関心を持っていただきたかったこ とである。心理学以外の学問と、理論的側面でも応用的側面でも高度な連携を 培ってきたのは、このテーマの誇るべき特徴である。それと同時に、「なぜ心 理学的研究が大切なのか」を常に主張することができるテーマでもある。私た ちは日々、自分が主人公となった、具体的な、一回性の選択をしている。期待 値に従わない判断をするという「問題解決」行動も、ギャンブルをするという 「非合理的」行動も、つきを変えることができるという「迷信的」行動も、本 書でふれた心理学的視点の重要性を示すごく一部の例である。

     編著者のうち、私以外の2人は行動分析学の研究者ではない。しかし私たち 3人は、ほぼ10年間にわたりいくつもの共同研究を行ってきた。本書の副題で ある「行動的意思決定入門」という言葉は、これまでの自分たちの研究発表を ほとんど「行動」領域で行ってきたという思い入れもあってつけたものである。 (ただし、入門というのは誇大?広告ではないかという説もある。)しかしも ちろん、この行動的意思決定理論という言葉は、私たちの造語ではない。 Journal of Behavioral Decision Makingというこの領域の代表的な専門雑誌 には、認知心理学的アプローチ、社会心理学的アプローチの研究に混じって、 数多くの実験的、数量的行動分析研究者の論文を見いだすことができる。専門 の異なる編著者が、共同研究を推進し、本書を纏めあげることができたことは、 ひとえにこのテーマが持つ懐の深さだったのかもしれない。


    続・米国の教育事情
    チャーター・スクールについて考える

    中野良顯(上智大学)

     日本ではチャーター・スクールに対する関心が高まっている。現地での見聞 や報道などを手がかりにして、チャーター・スクールの現状と課題について考 えてみよう。

     チャーターとは許可証、ないし認可証である。会社や大学などを興す場合、 立法府などが許可証を与える。その許可証のことである。

     チャーター・スクールは、教育委員会や公立大学や州教育省などから認可を 得て作られた、公立の独立学校である。独立学校(インデペンデント・スクー ル)は、元来、公的助成と行政の指導を一切受け入れない私立学校であるが、 公立であるところに独自性がある。

     公立学校は、州ないし学校区から子ども1人当たりおよそ年額6000ドルの財 政援助を受ける。チャーター・スクールも許可されれば、同額の税金補助が得 られる。しかもチャーター・スクールには公立学校への法的規制は及ばない。 カリキュラムを独自に開発し、教員採用を独自に行い、野心的な授業に挑戦し、 学校経営に保護者が全面的に参加する。税金を使って独自の教育ができる学校、 それがチャーター・スクールである。

    ビューパーク・プレップ・スクール
     リトル・トーキョーのあるロサンゼルス・ダウンタウンの西南にクレンショー がある。黒人居住地域である。そこに「ビューパーク・プレパラトリー・アク セラレイティド・チャーター・スクール」という舌を噛むような名の学校が 1999年に創設された。プレパラトリー・スクール、通称プレップ・スクールは、 私立の中等学校である。一流大学進学を目指す9学年から12学年生向けの寄宿 学校を典型とする。しかしビューパーク・プレップ校は、公立の幼稚園と小学 校とミドルスクールであり、来年、高校ができる予定である。

     プレップ・スクールというと、白人のお金持ちのお坊ちゃん学校というイメー ジがあるが、この学校の342人の子どもたちは、ほとんどがあまり裕福でない 黒人の子弟である。もちろん彼らは一流大学に進学し、そこのトップになるこ とを目指している。独自の制服が作られ、CEOと称するリーダーがいる。財 源確保のためのキャンペーンが大々的になされている。「ダディのためのスクー ル・ゴルフ・トーナメント」もある。入学待ちの応募者は1000人を越える。ど れもプレップ・スクールに共通する特徴であるが、ここは公立のため授業料が ただであることだけが違っている。

     ここはくじ引き入学である。保護者の60%は年収45000ドル以下であり、2 割近くが給食費補助を受けている。カリキュラムは私立学校と大差なく、コン ピュータの授業もある。中学1年生で「ウオーターシップ・ダウン」を読んで いる。標準テスト得点は、州平均を大幅に上回り、ロサンゼルス統一学校区の 「ベスト小学校」の一つである。チャーター(設置認可証)が下りた所以であ る。

     校長のマイケル・ピスカルは、ステュディオ・シティの名門校で英語を教え ていた。しかし、目をむくような授業料を徴収しなくても、一流の教育はでき るはずだという自分の理論を試すため、ピストルの撃ち合いもあるこの中心部 に、チャーター・スクールを設立した。現在はプレズビテリアン教会の敷地を 借りているが、校地を取得するため「インナー・シティ教育財団」とともに 1100万ドル募金に乗り出している。

    ガイダンス・チャーター・スクール
     ロサンゼルス郡の北方にパームデールという町がある。そのあたりはアンテ ロープ・バレーと呼ばれ、カリフォルニア・ポピー(州花)の保護地で知られ ている。2001年秋、「ガイダンス・チャーター・スクール」が開校された。こ の学校はイスラム教のモスクに作られたため、宗教色が強すぎて憲法違反では ないかと騒がれた。公立学校での宗教教育は禁じられているからである。もち ろん、これは9月11日のテロ事件と無関係ではない。アリ・ハッサン校長は、 エジプト出身のイスラム教徒で、UCLAからイスラム史の博士号を取っている。 今までモスクで金曜講話を行っていたが、チャーター・スクールの暫定認可を 延長してもらうため、当分中止することにした。テロ事件以来、あまり信心深 くないイスラム教徒がもう一度宗教を学ぼうとモスクに戻ってきたばかりのこ とで、この決断は苦渋に満ちていた。

     この学校では、宗教と国家の分離(charch /state separation)の原則に 従うため、教室とモスクの礼拝室との間に、薄いグレーの6フィート丈の間仕 切りを設置した。子どもたちが礼拝室での祈祷を見ずに便所にゆけるようにし たのである。

     しかし学校に反対する人たちは、隔壁くらいでは承知しなかった。教室はモ スクの中にあること、放課後にはコーランの授業が行われることなどが、表向 きの反対の理由だった。しかし実際はテロ事件以後のイスラム教に対する人々 の嫌悪感と、その中でこの学区がイスラム教に許容的であると誤解されること への恐れがそうさせたようである。

     「ガイダンス・チャーター・スクール」は、次年度の認可を得るため、校長 の金曜講話中止に加え、放課後のコーラン・クラスも延期することにした。教 職員は5名、うち1名がアラブ人イスラム教徒で、彼女は「サラーム・アレー カム」(平和があなたとともにありますように)というありふれた挨拶さえ、 授業中使うことを慎重に避けている。

    チャーター・スクールの未来
     チャーター・スクールは、1992年にミネソタ州で誕生した。今年は10周年で ある。その数は着実に増加し、今では34州とコロンビア特別区に、2400校以上 が開校している。アリゾナ州が最多で、以下カリフォルニア、ミシガン、テキ サス、フロリダと続く。

     半数以上は都市部に設置され、25%は基礎基本のカリキュラムを教え、4割 は中退者やリスク児を受け入れ、15%はエジソン・スクールなどの営利団体が 経営する。規模は200人以下、中央値は137人である。

     フィンら(2001)は、チャーター・スクールについて次の5つの結論を出し ている。

    (1)市場試験合格。学校を作りたい人、教員になりたい人、就学させたい親 で一杯である。消費者選択の洗礼を受けている。

    (2)革新と多様性の温床。従来の公教育とは別の教育バージョン、新しい授 業、主体的学校経営、保護者参加、伝統的教育でもよいものは生かす、流行で はなく「試して真実なものを」の哲学、自治と独立の強調など、新しい風が吹 いている。

    (3)公立学校への好影響。地域の反応は初めは「止めさせろ」から、「数を 抑えろ」、「公立もがんばろう」、そして「認めよう」へと変化した。

    (4)市場原理によるアカウンタビリティ。法的規制によらず、保護者による 選択と、設置認可機関に対する応募・経営・更新段階での報告の評価によって 淘汰される。

    (5)的外れだった批判。学区を財政難にする、恵まれない子どもや障害児は 利益をえられないなどは、どれも的外れだった。

    《文 献》
  • Finn, C. E., Jr., Manno, B. V., & Vanourek, G. (2001). Charter schools: Taking stock. In P. E. Peterson & D. E. Campbell (Eds.), Charters, vouchers, & public education (pp.19-42). Washington, DC: Brookings.
      上記の内容は『指導と評価』(図書文化出版:http://www.toshobunka.co.jp/) から、一部変更の上、出版社の許可をうけ転載したものです。

    サン・フランシスコに行こう!

    杉山尚子(国際担当常任理事・山脇学園短期大学)

     2003年度のABA年次大会は5月23日(金)-27日(火)、サン・フランシスコ・マ リオットホテルで開催されます。発表・参加申込の資料は8月中に届くことに なっていますが、日程をご確認の上、早目のご準備をお勧めします。特に、近 年は参加者も3,000名に近くなり、用意された会場のホテルが予約期限を待た ずに満室になっています。ABAは知力のみならず、体力も必要なイベントです。 セッションの合間にお昼寝で英気を養うためにも、ともかく会期中の全日程で 予約してしまうことが肝要です(あとでキャンセルできます)。特にサン・フ ランシスコは、日本でいえば京都に当たる米国随一の人気観光地ですから、ホ テルのオーバーフローは確実です。なお、宿泊費節減のためルームメートを希 望する方は国際担当までお申し出下さい。

    渡航費が無料になる助成事業スタートか?
     日本行動分析学会では、学生会員を支援するさまざま事業を行なっておりま すが、今年度の総会で凄い企画がスタートするかもしれません。それは、ABA に参加発表する本会学生会員の2名に対し、一人75,000円を給付するという新 事業です。この給付額はエコノミーの格安航空券を使えば、渡航費を完全にカ バーし、もしかするとお釣りが来るかもしれません。理事会・総会の決定次第 ですが、来年のサン・フランシスコ大会で発表を考えている学生諸君、チャン ス到来です!!(この企画実現のために、年次大会期間中の8月24日12時45分か ら開催される会員総会に出席しましょう!!)



    J−ABAニューズ編集部
     皆様からの記事を募集しています。研究室や施設・組織の紹介、用語について の意見、学会に対する提案や批判、求人・求職情報、イベントや企画の案内な ど、さまざまな内容に関する記事を期待しています。原稿はテキストファイルの 形式で電子メールかフロッピィ(DOS)により、以下の編集部までお送り下さ い。掲載の可否は編集部で判断してお返事します。なお、掲載された記事の著作 権は日本行動分析学会に属し、ホームページでの公開を原則にしています。メー ルアドレスなど、一般公開を望まない情報がある場合には、事前に編集部までご 連絡下さい。


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