『行動分析学研究』掲載論文抄録 Vol. 11
特集:選択行動研究の現在


選択行動研究の意義と将来

特集号アクション・エディター
大阪市立大学 伊藤正人

ヒトや動物の「意思決定」研究の一領域を確立した「選択行動研究」は、対応 法則の発見や同時選択の方法の開発を通して、選択行動の定量的な扱いを可能 にすることや様々な実験室場面から日常場面まで、あるいは臨床的場面から学 際的領域まで広範囲の行動に適用可能なことを特徴とする.選択行動研究の今 後の発展は、行動修正、選択理論、認知的意思決定研究との融合、社会的選択、 不確実状況における意思決定などの分野において期待される.

Key words 選択,対応法則,対応法則の応用、選択行動研究の将来

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選択行動の研究における最近の展開:比較意思決定研究にむけて

北海道大学  高橋雅治

本論文では、選択行動に関するオペラント研究における最近の展開が概観され る。特に、対応法則,遅延低減仮説、セルフ・コントロール、および、リスク 選択に関連する研究に重点が置かれる.これまでに提案された選択行動のモデ ルのいくつかは、人間以外の動物(ほとんどの場合、ハト)を被験体として行 われた研究から得られたデータをうまく記述することができるように思われる。 だが、人間を被験者として行われた研究から得られたデータのなかには、それ らのモデルによって説明することができないものもある。従って、選択行動の 定量的なモデル化に関する今後の研究は人間と人間以外の動物の差異の説明に 取り組んでいかなければならないことが示唆される。

Key words 選択行動、対応法則、遅延低減仮説、セルフ・コントロール、リス ク選択、種差

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発達障害児の衝動性とセルフコントロール

関西学院大学  嶋崎まゆみ

セルフコントロールのパラダイムを用いた選択行動の研究は、近年動物や健常 者の基礎研究が盛んに行われているが、発達障害児を対象とした研究はきわめ て少ない。注意欠陥多動性障害および自閉性障害の子どもたちは、多動性と衝 動性を主要な症状として持っている。したがって、そのような子どもたちの衝 動性とセルフコントロールに関する実験的な研究は重要であろう.本稿では、 それらの研究を次の2つの観点に基づいて概観した。すなわち、(1) 衝動性の 測定と評価に関する研究、(2) セルフコントロールの研究から得られた訓練手 続きに関する研究である。さらに、発達障害児にセルフコントロールのパラダ イムを適用する際の問題点について論議した。主な論点は、言語教示に関する 問題、強化子の査定、満足の遅延バラダイムとの関係の3点であった。

Key words セルフコントロール、衝動性、発達障害、注意欠陥多動性障害、自 閉性障害

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一般対応法則にもとづく選好の尺度化と選択行動データの推移性の検討

常磐大学  伊田政司

3種類のテレビ広告から任意の2広告を並立条件で提示し、被験者の選択視聴 行動を観察した。選択視聴時間配分を測定し、これから選択確率を求めた。実 験1では時間配分データに一般対応法則を適用し、反応バイアスパラメータの 推移的整合性を調べた。反応バイアスパラメータ間に推移的整合性が認められ たのは被験者17名のうち10名のみであった。しかし、時間配分データそのもの は1名を除いて推移性の条件を満たしていた。実験2では選択視聴時間配分デー タから求めた選択確率について推移性の検討を行ったところ、被験者15名全員 で推移性が成立した。ヒトの選択行動を行動的に観察した場合、選択時間配分 データから求めた選択確率は推移性の条件を満たしていることが示された.

Key words ヒトの選択行動、単純尺度化可能、確率的推移性、一般対応法則、 尺度構成法

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不確実状況における意思決定を巡る「選択行動研究」と「認知的意思決定研究」 の融合

大阪市立大学  佐伯大輔
大阪市立大学  伊藤正人

心理学における意思決定研究は、ヒトを対象とした認知的意思決定研究と、ヒ トと動物を対象とした選択行動研究に大別される。これら二つの領域は、前者 では質問紙法を用いた「認知的接近法」に基づいて、確率値が数値データとし て与えられる選択場面を、後者ではオペラント条件づけの技法を用いた「行動 的接近法」に基づいて、経験から確率値を獲得する場面を研究対象としている。 本稿では、認知的意思決定研究において提起されてきた問題、すなわち、プロ スペクト理論、べイズ的推論問題、連言効果問題に対して行動的接近法を適用 する新たな試みについて紹介し、二つの意思決定研究の融合可能性を検討した。 その結果、選択行動研究のもとで発展してきた一般対応法則はプロスペクト理 論と同様の予測を導出できること、また、ベイズ的推論およぴ連言効果に対し て行動的接近法を適用した研究では、「基礎生起率判断の誤り」や「連言効果」 が学習性のものであることを示唆する結果が得られた。以上の事実は、行動的 接近法に基づく研究が、これまで認知的意思決定研究が見落としていた部分を 補完する役割を果たすことを示している。

Key words 意思決定、不確実性、認知的接近法、行動的接近法、一般対応法 則、プロスペクト理論、ベイズ的確論、連言効果

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採餌行動の実験室シミュレーション:心理学と生物学の対話

大阪市立大学  内田善久
大阪市立大学  伊藤正人

 本稿では学際的領域としての採餌行動研究の最近の発展を概観した。最適餌 場利用、最適食餌、頻度依存捕食という3つの話題に対してオペラント心理学 が培ってきた方法論を適用した研究に主眼がおかれた。行動生態学から導出さ れた最適餌場利用と最適食餌という最適性モデルは、動物は最も効率的に餌を 採るという仮定を共通に持つ。最適餌場利用と最適食餌の問題に通用された、 強化スケジュールを用いた実験室シミュレーションは、最適性モデルによる予 測の検証や移動時間、餌の分布等の採餌行動に及ぼす様々な要因の効果を検討 する上で有効な方法論であることが示された。また、頻度依存捕食とは動物が 相対頻度の高い餌を過剰に摂食する現象のことを指す。この現象に適用され た、並立連鎖スケジュールを用いた実験室シミュレーションの結果は、餌の目 立ち易さの要因が頻度依存捕食を生起させる上で重要であることを示した。こ れらの知見から、実験室シミュレーションが最適性モデルによる予測の検討や 採餌行動に影響する要因の探求に際して強力な道具となることが明らかにされ た。

Key words 選択行動、採餌行動、最適餌場利用、最適食餌、頻度依存捕食、 実験室シミュレーション、強化スケジュール

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行動経済学と選択理論

慶應義塾大学  坂上貴之

実験的行動分析における行動経済学の成立過程とその代表的実験を挙げながら このアプローチの考え方を述べ、選択行動の研究をめぐるこの学の貢献と今 後の問題を検討する。行動経済学は心理学と経済学の共同領域として生まれた。 しかし、この学がミクロ経済学が蓄積してきた経済理論とその予測を、実験的 行動分析における選択行動の実験結果に適用して理論の実証を行ってきたこと、 経済学が培っていた諸概念を新しい行動指標として活用していったことから、 それまであった伝統的な経済心理学とは異なる道を歩んだ。ミクロ経済学には、 最適化と均衡化という2つの考え方がある。それぞれの主要な分析道具である 無差別曲線分析と需要・供給分析から導出される予測や概念、例えば効用最 大化・代替効果・労働供給曲線・弾力性は、個体の選択行動の様々なケース、 例えば対応法則、反応遮断化理論、実験環境の経済的性質などへの行動経済学 からの視点を提供してきた。今後、行動生態学、行動薬理学、実験経済学といっ た諸領域との連携をとりながら、実験的行動分析における独自の枠組みの中で の均衡化と最適化の原理が検討されていく必要がある。

Key words 行勅経済学、無差別曲線分析、需要・供給分析、対応法則則、反 応遮断化理論、弾力性、閉鎖経済的/開放経済的実験環境

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選択行動の巨視的理論と微視的理論

弘前大学  平岡恭一

 選択行動を説明するために、これまで多くの理論が提唱されてきたが、これ らの理論は、巨視的理論と微視的理論とに分類することができる。本論文では、 選択行動に関する研究を展望し、その現状と問題点とを、巨視的理論すなわち 対応理論と経済学的最大化理論、及び微視的理論すなわち微視的最大化理論と 改善理論についてまとめた。次に、巨視的立場と微視的立場の関係について考 察を行ない、最近、そのような関係についての新しい見方と、集成水準に関す る新しい研究が出現してきたことを指摘した。

Key words 選択行動、対応法則、巨視的最大化、微視的最大化、改善、集成 目次へ戻る

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