日本行動分析学会ニュースレター
J-ABAニューズ 1996年 春号 Vol. 1 No. 3
第14回大会近づく!!
来月、8、9日は、年に一度の大騒ぎ、じゃなかった、行動分析学会の年次大
会が、名古屋の名古屋国際会議場で開催されます。大会準備委員会からきれい
なポスターも届き、気分はもうシャチホコ状態です。そこで今回は、現役女子
大生を愛知県心身障害者コロニーの事務局へ派遣し、大会委員長へインタビュー
を試みました。
社会に開かれた行動分析
M:こんにちわ。阿波短期大学2年の渦潮まき子でぇーす。今日はコロニーの
望月昭先生にお話をうかがいにきました。
A:こんにちわ。
M:えーと、今回は、「社会に開かれた行動分析」というテーマなんですけど、
このテーマについて説明して下さい。
A:このテーマ、お気づきの方も多いと思いますが、行動分析学研究8巻1号
のエディトリアルで、小野浩一先生がつけておられた「社会に開かれた行動分
析へ」とほぼ同じなんですね。
M:じゃ、パクリですか?
A:(一瞬、ムッとした表情になる)。いえ。語尾に「へ」がないでしょう。
M:ゴビって何?
A:とにかく、小野先生があの時に主張されてたことの波状攻撃をやろうとい
うわけです。もとより行動分析学は、関係諸科学の中で最も社会、つまり環境
に開かれているものです。というか、そのことが特徴であるとも言えます。当
然、大会という言語行動の場もその特徴にふさわしく「社会に開かれたもの」
であるべきと考えています。
M:「社会に開かれた」というのは?
A:行動が環境によって変わっていくように、学問や学会も環境によって変化
するということです。社会の要請や他の学問における知見を無視することなく、
むしろ積極的に交流して、より発展しようというわけです。そこで、今回の大
会でも、発表テーマの内容はもちろんのこと、大会の企画や発表形式について
も、発表者、参加会員、そして非会員の一般参加者が互いに「開かれた」もの
になるように考えています。
大会での新企画
M:それじゃ、今回の大会では、そうしたことを念頭において企画を進められ
たわけですね。A:そうです。(少し小声で)たまたまそうなったものもあり
ますが。M:今回の大会の目の付け所を具体的に教えて下さい。A:まず、発
表のしやすさ、オーディエンスとの交流の便宜をはかる、という意味から、今
回は一般発表は、口頭発表だけでなく「ポスター発表」も選択できるようにし
ました。またポスター発表でも、いくつかの発表ごとに、座長にあたる「セッ
ション・リーダ」というものを配置して、活発な議論を促進します。M:へぇーっ。
今までの口頭発表はどうしも質疑応答の時間が短くて、時間切れてって感じが
することも多かったですもんね。
A:また、2日目の午後に、「セッション報告会」という時間を設けて、口頭
発表のセッションを含め、そのセッション・リーダが、全体会場で、自分の担
当グループの総括を発表します。
M:いつもいろいろな発表があって、あたまがバラバラになっちゃうから、そ
いういうの助かるな。それから、大会のポスターの中に「ポスターアピール」
という言葉がありましたけど、あれは何ですか?
A:ポスターアピールという企画は、いくつかの社会的に重要な話題を選んで、
今後の行動分析的アプローチの展望などについて紹介してもらうというもので
す。今回、いじめ、高齢者、臨床看護の3つのテーマについて、準備委員会が
依頼した会員に発表してもらいます。
M:社会の要請に応えるということですね。
A:そうです。それから、ワークショップのひとつである「いまわれわれがな
すべきこと」では、社会と学会の関連について議論するようです。
M:なんだか、今までの大会とは様子が違って、超おもしろそーですね。
特別講演:笠井潔氏
A:今回は、「特別講演」に、行動分析の外の世界からの講師を招いています。
まあ、外から風を入れるという意味で、これも「社会に開いた」企画だと思っ
ています。ちなみに、講師の笠井潔氏のテーマも「社会というフィクション、
私というフィクション」です。
M:笠井潔さんで誰ですか?まき子、ご本はあまり読まないから。
A:笠井潔氏は、いわゆる現代思想家、文芸評論家として知られた方です。最
近はミステリー作家としてもご自分を位置づけているようです。まあ最初の方
の肩書きとそれほど境界はないらしいですが。
M:ミステリーなんて恐い...
A:(無視して)私は、笠井氏の短い記事を「現代思想」とかで拾い読みする
程度の知識しかなかったのですが、自動車雑誌のNAVIに連載されていた
「アナルコ・キャピタリズム宣言」という、ラデイカルな自由主義を徹底した
仮想社会についての連載を読んでいて、これはちょっと面白いと思ったわけで
す。一種のユートピア論でもあると思うのですが、これは、スキナーが生きて
いて、もう一回「WOLDEN TWO」を、経済学やら思想やらのことを織りまぜて書
いたらこういう風になるんじゃないか、とさえ思ったものです。この連載は、
いま「国家民営化論」というタイトルで、カッパサイエンスから単行本として
出ています。氏の書かれた本の中では、最も「読みやすい」本だと思います。
会員の方々は、学会に来る前に、是非読んでおくとよいと思います。
名古屋でのおたのしみ
M:名古屋で大会が開かれるのは初めてですよね。
A:確かに、名古屋市内で学会を開くのは初めてです。ただし愛知県というこ
とであれば、大昔、「研究会」だった時代に、当時コロニーの冨安先生が「定
光寺」という場所で開きました。それから、数年前に浅野先生・樋口先生らが
愛知大学の「名古屋校舎」で開きましたが、実は市外でしたので、やっぱり名
古屋は初めてということになります。
M:ニャゴヤっていうと、やっぱりエビフライですか?
A:(もうほとんどまき子と目を合わせず)私の個人的な順序で言いますと、
食べ物は、(1)風来坊の手羽先、(2)うなぎの櫃まぶし、(3)山本屋の
味噌煮込みうどん、(4)伊勢の赤福というところでしょうか。「みそにこみ
うどん」というのは、みそカツと同様に有名ですが、回数を重ねて初めて旨さ
がわかるというものかも知れません。観光の方は、まあ、やはり、明治村、リ
トルワールドなんかは一度は行くべきでしょう。リトルワールドの博物館は結
構たいしたもんです。あと近くで言えば、名古屋水族館なんかも面白いです。
伊勢神宮は、実は最近初めて行ったのですが、明治神宮なぞがごく最近になっ
て安直に作られたということがよくわかります。
M:あたし、水族館、大好き。
A:でも、学会をさぼって行ったりしないように。それに水族館は日曜がお休
みです。
M:くしゅん。
A:それから、クルマ好きな人なら国内外の名車が揃ったトヨタ博物館。古美
術好きなら有松絞りで有名な江戸情緒の残る有松なんかも一見の価値ありでしょ
う。
M:望月先生、クルマ好きなんですか?えーっ、ドライブつれてって。
A:(ただ、ただ、困惑)
*この架空インタビューは電子メールを使って大会事務局にあてた質問への回
答をもとに編集局が勝手に作り上げたものです。望月先生、渡部先生、ご協力
どうもありがとうございました(編集)。
我ら「セブン−∞」ゼミ!?
上越教育大学障害児教育講座 藤原研究室
研究室&研究会紹介シリーズ 第1弾
大橋隆史 (上越教育大学修士課程2年)
上越教育大学障害児教育講座藤原研究室を院生の目から紹介させていただき
ます。
当講座は学部はなく、障害児教育の専門的な知識と技能を持った教員の養成
を目指す修士課程のみのコースです。したがって、院生の6〜7割は現職の教
員であり、残りが学部卒の学生からなります。我が研究室のメンバーは、M2
が4名(学部卒)、M1が5名(現職教員2名、学部卒3名)の計9名の大所
帯です。障害児教育経験者とこれから経験していく者が、一緒になって日々あ
れやこれやと議論を重ねています。その主な内容は、もっぱら臨床のこと、そ
して、それぞれの研究テーマが中心です。ゼミも白熱し、深夜まで議論が繰り
広げられています。以前は、藤原研究室のゼミは午後7時から11時まで行わ
れていたために「セブンイレブン」と呼ばれていました。しかし、現在は終了
時刻が未定のため「セブン−∞」に変更になりつつあります。タイムキーパー
を置くべきでしょうか?。
さて、藤原研究室の活動内容ですが、大学附属の障害児教育実践センターで
の臨床が主体となっています。センター内での臨床は、主に学童の発達遅滞児
を対象とした個別学習指導が中心です。その他に、週1回3人の対象児を1グ
ループにした小集団指導も行っています。また、週1回隣町の通所作業所にお
もむき、重度精神発達遅滞青年を対象に、家庭や作業所での適応のための援助
方法について検討しています。
センター内での臨床の様子は全て備え付けのカメラによって行動観察室でモ
ニターされ、録画録音されます。我々院生が誤った指導手続きを行った際には、
藤原先生はただちに行動観察室を飛び出して個別学習指導室に入り、即時対応
で私たちの不適切指導行動を消去していただけます(時には、過度の緊張から
院生の不適切な指導行動が増加することも・・・アリ?)。
個別臨床は、机上での個別課題を中心に行っています。8名の幼児、学童そ
れぞれに応じた個別課題を設定しているため、内容はバラエティに富んでいま
す。また、それぞれの個別指導に共通して、学習課題を対象児が自ら選択要求
できるシステムになっています。現在、課題の選択要求行動は継続して指導中
ですが、そのモードは、音声言語から、指さし行動、手さし行動といった動作
系、写真や絵や文字を用いた視覚系によるものまで、それぞれの対象児の行動
レパートリーを生かした内容になっています。現時点では、それぞれの対象児
が、的確に指導されたモードで課題を選択するようになっています。ある対象
児では、選択して遂行した課題をもう1度「やりたい!」と繰り返し要求する
ことがみられます。しかし、残念なことに、教材が足りないときがあり、心の
底から「ごめんなさい」と謝らなければならないこともあります。本当にごめ
んなさい。
続いて小集団指導ですが、今年度は、養護学校と特殊学級の1年に在籍する
3名の対象児を対象に、学校の学級活動を想定した場面を設定しました。そこ
では、一斉の言語指示に応じることが困難な子ども達がMT(メインティーチャー)
の一斉指示に応じることを目標に、学級活動場面(出席、替え、机上課題等)
で、その補助的伝達手段として、指示された活動内容を示す絵カードや動作指
示等の視覚的手がかりの使用について検討しました。余談になりますが、この
グループのクリスマス会では、フルーツポンチ作りを行いました。それぞれの
対象児が上手に材料を切り分け、好みの甘さに仕上げ、おいしいフルーツポン
チを作り上げました。院生が作ったものよりもおいしいというのがお母さん方
の評価でした。自信はあったのですが・・・残念です。
重度発達遅滞青年を対象とした、作業所での指導については、当初、対象者
が作業所に入ることすら困難な状態であったため、初期のプログラムでは、作
業所に入り簡単な作業を行うことを目標としました。現在では、作業内容の充
実と作業時間の延長、そして休憩時間の充実した過ごし方を目標として取り組
んでいます。また、余暇活動の充実を目指して、対象者が好みしかも利用可能
な地域資源を調査するとともに、対象者の実態と家族の要望を考慮し、指導を
行っています。現在では、地域内の飲食店での食事や家族旅行、ジョギングと
いった活動への参加が可能になりました。これらの活動の定着や拡がりが今後
の課題です。
臨床紹介の最後になりますが、週に2〜3回保育園を訪問しています。保育
園の保母からの指示や、活動に柔軟に応じることが困難で不適切行動を起こさ
ざるを得ない子どもを対象に、保育園での適応を目指して援助を行ってきまし
た。その内容は、対象児の不適切行動の生起要因を分析し、担当保母に対して
指示や対応の仕方について話し合い、具体的な介入方法を決定していくという
ものです。その結果、順調に不適切行動が減少して、保育園での適応が向上し
て行きました。
以上で簡単ではありますが、藤原研究室で現在取り組んでいる臨床について
紹介しました。検討すべき点は多々ありますが、是非ともペーパーにしていき
たいと思います。今度、是非藤原研究室においでになりませんか?様々な意見
を言っていただければと思います。
最後に、「セブン−∞」と名称の変更を余儀なくされている、ゼミの活動に
ついてお知らせします。ゼミの内容は、各自が興味・関心を抱いているテーマ
(特に、障害児のコミュニケーション行動、問題行動、社会参加や余暇活動、
そして保護者への援助方法等)について、内外の文献をレビューし発表してい
ます。そのレビューから、発表者が疑問点や問題点をオーディエンスに投げか
けると同時に、オーディエンスからも発表者に向けて質問がなされます。この
ディスカッションでは、ホワイトボードに図示して熱弁をふるったりと、意見
が矢のように飛び交っています(時には、全員が深く考え込み、室内にペーパー
の捲る音と溜息が響きわたるような、何ともいえない沈黙の時があったりしま
すが・・・)。また、実験や臨床のビデオとデータを基に、対象児の行動分析
を行い、形成手続きの問題点や変更点について検討しています。データという
ものは正直なもので、指導者側が意図していない行動がみられたときは、必ず
と言っていいほど指導者側が何等かの異なった変数を入れているものですね。
指導者が良かれと思って行っていることでも、対象児にとっては簡単には受け
入られるものではなく、単に混乱を招いているだけであったりします。研究室
一同、指導の難しさを痛感するとともに、対象児に応じた配慮、とりわけ場面
やそこでの指導手続きの工夫の重要性について身を持って感じています。ゼミ
では、各自が新たな発見と反省の繰り返しです。そんなわけでゼミの時間も超
過してしまうのでしょう。しかし、そういったプロセスを経ることで、障害児
教育における応用行動分析的アプローチを実際に学ぶことができるのだと思い
ます。研究室一同、様々な発達遅滞児の行動に対して「なぜそんな行動をする
の?」という疑問に向き合い、拘り、「行動の機能」を合い言葉に、日々臨床
に研究に精進していくつもりです。
上越教育大学で大会が開かれてから早くも2年が過ぎました。夏は山、冬も山
に囲まれて、アウトドア大好き人間にとっては羨ましいばかりの環境です。今
年の2月には、藤原研究室の方々の主催で応用行動分析の研究会も開催されま
した。スキーの好きな人はぜひ1度、研究室を訪問されてみたらいかがでしょ
うか?尚、この原稿は今年の1月、大橋氏が修士論文を完成させてホッと一息
ついたときに依頼して執筆していただいたものです。大橋氏は現在卒業され、
福島県立あぶくま養護学校安積分校に臨時採用として勤務し、採用試験合格を
目指しています。がんばれ隆史!(編集)。
企業における行動分析学
パーフォーマンス・マネージメント研究会(通称PM研)
PM研ホームページが開設されています
井上貞郎
設立の趣旨:会社で行動分析を!
行動分析学の理論や技法は、一般の企業においても効果的に活用できると考
えられます。そのことが現実化するためには、企業人が行動分析の理論やその
活用方法について学習することが必要です。かねがね企業内での応用に道を開
きたいと考えていましたが、なかなかきっかけがつかめないでいました。よき
指導者を得て、行動分析学に興味のある企業人が集まって、94年の8月から
勉強会を開催しています。会社の仕事としてというより、個人的な勉強として
参加している方々が多いですが、徐々にこの研究会の成果をコンサルティング
業務や教育業務に使いだしている方もいます。
活動の経過:教科書と実践と
設立時の会員には、学生時代に行動分析学を学習したものはいませんでした。
全員が素人で出発しました。そこで、基本的な知識を身につけるため「行動分
析学入門」を使用し、慶應義塾大学の杉山尚子先生の指導により行動分析学の
基礎理論と手法について学習しました。
一応の知識は身についたと考えられるので今後応用に入っていきます。研究
会としては、各自の応用場面でのレポートに基づき討論を重ねながらより学習
を深めていきます。また、優れた企業であるという社会的評価を得ている企業
を対象にして、行動分析の立場から分析してみることにもチャレンジしてみよ
うと考えています。
ミーティングは月1回、日比谷のグリーンスタンプの会議室をお借りして開
催します。5時より7時まで学習、7時から場所を移してノミニュケーション
を行います。行動分析学に興味のある企業人の参加を期待します。
概 要
設 立 1994年8月
代 表 井上貞郎 常任理事
事務局 江本真理、山本伊津子
会 員 11名(1996年4月現在)
業 界 流通、情報、医療
指導者 杉山尚子先生 慶応義塾大学
連絡先 山本伊津子 (有)ワークベンチ
〒162 新宿区富久町11―19
シャモット市ヶ谷107
TEL 03―3225―8529
FAX 03―3225―8582
活動の成果:科学的人間観をビジネスへ
メンバーは業種は違いますが社員や顧客の指導や教育を業務とする人が多く、
自分の仕事について科学的に整理することが出来るようになり大いに恩恵を受
けています。中には顧客に対するコンサルティングに活用したり、講師業に活
用したりしてビジネスに活かしている人もいます。また、さまざまな業種の人
が集まっているので異業種交流会となり自分の業種だけでは得られない幅広い
交流が実現しています。
*PM研では今後のさらなる発展を目指して参加者を募集しています。参加費
は1回千円の謝礼と飲み会の費用くらいだそうです。私も1、2度お邪魔させ
ていただいたことがありますが、皆さん熱心でたいへんな勉強家です。行動分
析学が百鬼夜行のビジネス界で通用するかどうか、真剣にチャンレンジしてお
られます。企業における行動分析学の応用に興味のある方はぜひ山本伊津子さ
んまでご連絡下さい(編集)。
マーフィーの法則を行動分析的に考える
駒沢大学人文科学研究科 山岸直基
「失敗する可能性のあるものは、失敗する。(If anything can go wrong,
it will.)」という言葉に代表されるマーフィーの法則にはさまざまな日常的
な現象を記述したものが含まれている。本稿の目的はマーフィーの法則の中に
示されているいくつかの日常的な現象について、行動分析的な説明を試みるこ
とである。
マーフィーの法則にはさまざまなパターンがある。1つめのパターンは阻止
の随伴性と関係した言語行動である。阻止の随伴性とは、行動の生起が環境の
変化を阻止する随伴性のことであり、たとえばコップで水を飲むときに、こぼ
さずに飲むという行動は、こぼれるという環境の変化を阻止するので維持され
ると考えることができる。そして、マーフィーの法則の中の「お湯につかると、
電話のベルが鳴る。」「破れるとしたら、卵が入っている袋だ。」などがこの
パターンに分類される。日常生活ではほとんどの場合、電話のベルが鳴ってい
るのを聞けば電話に出るし、卵は無事に家に持って帰っているのである。した
がって日常生活のほとんどの場面では、ベルの音は聞こえているのに電話に出
られなくなったり、卵が割れるという環境の変化はない。嫌悪的な状況になる
のを阻止しているのである。しかし、まれに嫌悪的な状況(ベルが鳴っている
のに電話に出られなかったり、卵が割れたりすること)が出現する。そうする
と、まれな出来事についての報告行動はまわりの人から強化されやすいので、
「お風呂に入っていたときに電話のベルが鳴る」というような出来事は言語化
されやすくなるのである。
2つめのパターンは、強化的な状況と嫌悪的な状況を経験する回数はほぼ同
じであるが、嫌悪的な状況を経験する時間のほうが長いために、「嫌悪的な状
況が(多く)起きる」という言語行動が生起するという例である。「ほかの列
のほうが早く進む。」「探し物は、最後に探す場所でかならず見つかる。」な
どがそれに分類される。列に並ぶと、その列は早く進むときもあれば遅いとき
もある。物を探すとき、すぐに見つかることもあればなかなか見つからないこ
ともある。そして、列が早く進むことは強化的な状況であるが、当然それを経
験する時間は列の流れが早いだけに短い。それに対して、列の進みが遅いのは
嫌悪的な状況であり、それを経験する時間は列の流れが遅いので長くなる。そ
のため、強化的な状況と嫌悪的な状況が同じ割合でランダムに起きたとしても、
それを経験する時間は嫌悪的な状況のほうが長くなる。そういった場面では、
「ほかの列のほうが早く進む」という言語行動が自発されるのである。筆者は、
以前に、この2つめのパターンについての実験を行った。そこでは、大通りの
片側でタクシーを待つというシミュレーション場面を実験室の中に作った。そ
して、大通りのどちらで待つかをはじめに選択し、ときどき反対側にタクシー
が素通りするのを見ながら、選んだ側にタクシーが来るまで待つという試行を、
タクシーの到着をランプの点灯におきかえて経験してもらった。その結果、選
んだ側と選ばなかった側にランプが点灯した回数は同じであったにもかかわら
ず、選ばなかった側のランプがつきやすかったと報告した被験者は62%であり、
同じと報告した被験者は17%、選んだ側と報告したのは22%だった。2つめの
パターンが実際に存在することを示す一例である。しかし、この説明を検証す
るためにはさらなる実験が必要である。
本稿ではこの2つのパターンにかぎって説明を試み、それに関連した実験を
紹介した。もちろんマーフィーの法則はこの2つのパターンだけではない。別
のパターンについてはさらに説明が必要であろう。日常のこのような現象を行
動分析的に考えることは、これらの現象の理解に役立つのではないだろうか。
なお、本稿で紹介されている実験は、日本心理学会第59回大会において発表さ
れたものだそうです。詳しい内容に興味を持たれた方はそちらを参照するか、
筆者までE-mailにてご連絡ください(VYC13337@niftyserve.or.jp)。意見・
感想などもお待ちしています。
続報 『洗脳の科学』
前回、前々回の望月氏の記事で取り上げられた「洗脳の科学」という本の元
本について、ABAのBALANCEという研究会の現責任者であるJoe Wyatt氏にこ
の本に対する質問をしたところ、以下の返事が返ってきた。友人の何人かも尋
ねてみたが、誰もこの本を知らなかった。どうやらすくなくとも米国ではこの
本は売れていないらしい。ちなみにBALANCEとは Behavior Analysis League
for Accuracy in News, Commentary, and Education の略で、マスコミや出版、
教育の分野で行動分析学がどう扱われているかをチェックし、間違った情報は
矯正するするように働きかけようとしている研究会である(編)。
Thank you for your inquiry about the book Behavior Modification: The
Art of Mind Murdering.
I have not seen the book. It is not well-known here. In fact, I
haven't heard of it, ever. And I am glad I haven't.
Joe Wyatt
Chair, BALANCE
編集後記
5/24からはサンフランシスコへ国際行動分析学会の第22回大会へ行っ
て来ます。こちらの方は本当に年に一度のお祭りという感じなので、今からワ
クワクしています。
J-ABAニューズ編集局
〒772 鳴門市高島 鳴門教育大学 人間形成基礎講座 島宗 理
TEL 0886-87-1311(内340) FAX 0886-87-1053
E-mail simamune@naruto-u.ac.jp
J-ABAニューズでは会員の皆様からの記事を募集しています。研究室や施設の
紹介、用語についての意見、学会に対する提案や批判、求人求職情報、イベン
トや企画の案内、ギャクやジョーク、その他まじめな討論など、行動分析学研
究にはもったいなくて載せられない記事を期待します。原稿はテキストファイ
ルの形式で、電子メールかフロッピー(DOS/Mac)により編集局までお送り下
さい。2000字程度を目安にし、本紙1頁におさまるように考えていただければ
結構です。