日本行動分析学会ニュースレター

J-ABAニューズ 1995年 秋号《創刊号》  Vol. 1 No. 1


もっと行動を!


 お待たせしました。日本行動分析学会のニュースレター、J-ABAニュー ズの創刊号です。ジェイ・アバ・ニューズと読んで下さい。

 「なぜ行動分析学がもっと広まらないんだろう」という声をよく聞きます。 確かに行動分析学は認知心理学ほどポピュラーじゃないし、一般には、ユング を知っている人の方がスキナーを知っている人より多いかもしれません(客観 的データはないけれど)。

 それでも行動分析学会の年次大会などに参加すると、いろいろな分野でたく さんの人が活躍していて、とても行動分析学がマイナーなおたく集団だとは思 えなくなるときがあります。ひょっとしたら世の中は行動分析学で満ちあふれ ているのに、自分がそれに気づかないだけではないだろうか。そんな嬉しい不 安を感じることさえあります。日本全国で行動分析家が日々様々な活動をして いる、でも、その様子が会員に十分には伝わっていない。おそらく現実はそん なところではないでしょうか?

 行動分析学のセミナーや勉強会が開催されるのを知っていれば参加したい人 もいるでしょう。自分が取り組んでいる問題行動にすでに取り組んでいる人が どこか他にもいるかもしれません。アイディアを提供し合えば研究やサービス の質が向上するかもしれません。日本のどこの大学でどんな研究が行われてい るか、どんな施設でどんなサービスが提供されているのか、今、行動分析学で 何が行われているのか、行動分析学に関するリアルタイムの情報が必要です。

 J-ABAはこうした情報交換を活性化するためのメディアです。行動分析 家の行動分析家的な行動を増やすために豊富なSDを提供する仕掛けです。学 会誌である「行動分析学研究」は科学的論文の発表の場ですが、こちらではセ ミナーや講演会の案内、実践リポート、その他、行動分析学研究へ投稿するに は面白すぎる討論などを引き受けます。

 J-ABAでは会員間の交流をできる限り増やしたいと願っています。紙上 討論、大歓迎です。大会の限られた発表時間内では決着のつかない突っ込んだ 議論を展開してみませんか?スキナーは言語行動を「他者によって強化される オペラント」と定義しました。これって社会行動ですよね。人と人が協調して いい仕事をしていくのに欠かせない行動ですよね。学会内の健全な言語オペラ ントを倍増しようじゃありませんか。

 次号は、来年の2月に予定しています。皆様からの記事やご意見をお待ちし ております。

編集局長 島宗 理


『洗脳の科学』と実験的行動分析

「行動修正」: 精神抹殺の技術(?)

望月 要 (放送教育開発センター)

 ここ半年ほどの間、 ``サブリミナル''とか ``マインド・コントロール''と か``洗脳''などという言葉が、 改めて世間の関心を呼び、 一時、 このよう な話題を扱った本が、 書店の棚に目立つようになった。 『洗脳の科学』(リ チャード・キャメリアン著、 兼近修身訳、 第三書館) という本は、 そのう ちの1冊で、 私が買ったときには、 「オウムとカルト教団のマインド・コン トロール」という帯が付いていた。

 英語の原題は、 ずばり『Behavior Modification: The Art of Mind Murdering』。本書の訳者の訳語を借りれば「行動修正: 精神抹殺の技術」と でも訳すべきであろうか。 「行動修正 (行動療法)」とは、 薬物や外科手 術によって人間の行動を修正したり変化させる様々な技法を扱うものである」 (序章、 p.7)という書き出しに始まり、 続く9つの章の随所で、 行動修正 やスキナーの心理学に対する批判が、 極めて攻撃的な口調で述べられている。 翻訳書を読む限り(本稿の著者である私は、 翻訳書しか読んでいない)、 著 者のリチャード・キャメリアン(Camellion、 Richard) が、 どのような人 物なのか、紹介されていない。

 本稿では『洗脳の科学』の概要を紹介し、 次に行動分析の研究・実践・教 育に関係する者として、 このような批判 (その多くは誤解であるが) をど のように受け止め、 対応するべきか、 私なりの考えを述べてみたい。 活発 な議論のきっかけになれば幸いである。

『洗脳の科学』

 この本は序章を含めて10章からなる (以下『洗脳の科学』からの引用部分、 あるいは同書の著者の用語は「」で囲って示す。 勿論「」内の「」は、 訳者 の用法どおりである)。

 第1章「マインド・コントロール --- 思考操作 --- とは何か?」で、 著者 は「行動修正」という用語を「洗脳」と関連づけて説明した後、 「行動修正 とは、 個人や国民を服従させ思考力がなくなるよう訓練しロボットのような 奴隷状態におとしいれるために使うテクニックのことである」 (p. 26) と 結論する。そして、 この「行動修正」を押し進める中心的人物の一人としてB .F. スキナーを糾弾する (p. 27, pp. 32-35)。

 第2章「ロシアの実験 --- 革命前と革命後」と第3章「ロシアにおける現 代的洗脳のテクニック」では、 1920年代から第2次大戦後にかけて、 ロシア およびソビエトの刑務所や強制労働キャンプで行われた、と著者が主張する 「洗脳」の方法について紹介され、 続く第4章「北朝鮮における精神的抹殺 行為」では、朝鮮戦争中に北朝鮮によりアメリカ兵捕虜に対して与えられたと 著者が主張する「洗脳」の事例が解説される。 ここで著者は、 パブロフの条 件づけ (pp.37-41) やスキナーのオペラント条件づけの原理 (pp. 71-74, 78, 81) が、「洗脳」に利用されたと主張している。

 第5章「薬物と脳外科手術が行動修正に果たす役割」では、 LSDや覚醒剤な どの向精神薬や、 神経生理学に関わる研究例が紹介され、 こうした研究成果 が「精神のねじ曲げ」に応用される際に、 スキナーの「行動主義」が主導的 な役割を果たしている、 と著者は主張する (pp. 106-113, 118-119)。

 第6章「合州国におけるマインド・コントロール実験」では、 CIA (アメ リカ中央情報局) がアメリカで行ったと著者が主張する「被験者の意志をコ ントロール」 (p. 129) したり、 記憶を制御する研究 (pp. 136-138) が 紹介され、 第7章では、 「ストレス」、 「感覚遮断」、 「嫌忌療法」、 「神経外科」、 「化学療法」(pp. 153-154) を利用した、 刑務所あるいは 矯正・治療施設での実験 --- その多くは被験者の基本的人権を著しく侵害し ている --- が批判的に論じられる。 著者は、 こうした事例を「行動修正」 と呼び「行動科学者」や「行動主義者」が関与していることを告発している。

 第8章「電子洗脳」では、 人間の行動や生理的状態を遠隔測定したり、 電 気ショックなどの嫌悪刺激を提示する電子技術について述べられ、 それが刑 務所管理などに応用された場合に生じる人権問題について論じられている。

 第9章「宗教カルト及び倫理的考察」では、 アメリカの様々な「宗教カル ト」における「洗脳」を「行動修正」と関連づけて論じ、 刑務所や精神病院、 学校で行われている「行動修正」を「合法的洗脳」 (p. 215) であるとして いる。

 ここで `...と著者が主張する...' という書き方をしたのは、 主張の根拠 となる事実について、 著者は第1次資料を明示していないので、 読者にはそ れが事実であるかどうか、 確認するすべがないからである。

2つの「誤解」: 行動分析の課題

 本書の著者が行動修正に対して激しい非難を浴びせる背景には、 2つの問 題があると考えられる。 1つは著者が『行動修正』に対して誤った理解をし ていること。 そして (これが一番重要な問題なのだが)、 それは著者の個 人的な誤解ではなく、 それなりの根拠があり、 広く受け入れられている誤解 であるらしいこと。 もう1つは、 スキナーの著書『自由と尊厳を越えて』 (Beyond Freedom and Dignity)に代表される、 スキナーの自由や統制に対 する考え方を巡る議論である。

 次回は、 この2つの問題に焦点を絞り、 検討して行きたい。


有馬の夜は行動分析に燃えた!?

第16回応用行動分析研究会報告

井上雅彦 (兵庫教育大学)

 応用行動分析研究会は、障害児教育を専門にした若手(?)の教官・学生が、 毎年夏と冬に互いの研究を発表して情報交換を行ったり、研究の方向性につい て討論を行ったりしてきました。夏は温泉OR海水浴、冬はスキーがオプション として用意され、研究会の後の飲み会&大学対抗の演芸大会(セクハラあり?) とあわせて、正の強化も万全です。大変自由な雰囲気の、パワーあふれる楽し い研究会です。

 今年は9/22〜24まで兵庫県の関西地区大学セミナーハウスで行われました。 研究会も88年以来、8年目となり、参加者も去年に次いで多い45名となりまし た。ちなみに今回は10件の研究発表と、3件のポスター発表、そして特別企画 として「応用行動分析における社会的妥当性」をテーマにしたワークショップ と、日本語に訳しにくいタームについて適当な訳語を検討するための「用語検 討会」が行われました。

 今回も「よく学び、よく飲み、よく遊ぶ」という言葉がぴったりくるような 3日間でした。研究会では、各大学の個性あふれる最新の研究発表が行われ、 活発な討論が繰りひろげられました。研究会の時間だけでは、時間が足りず、 その後に催された飲み会の席でも、活発な研究交流を行う姿が随所にみられま した。演芸大会では、趣向を凝らした企画の数々(吉本興業も、シンクロナイ ズドスイミング日本チームも真っ青!)が披露され、場内は笑いの渦に包まれ ました。オプショナルツアーも、有馬温泉でゆっくりしたり、宝塚ファミリー ランドで絶叫したりと楽しみ満載でした。

 次回、冬の応用行動分析研究会は、2月末に新潟の妙高高原で開催されます。 スキーも楽しめます。スキーをはいたことのない人でも、藤原先生の行動論的 コーチングにより、1日で中級者コースが滑れるようになります。

 詳細は、上越教育大学の藤原義博先生まで。

年次大会より充実していた(?) 応用行動分析研究会での口頭発表

(1)重度・重複障害児における課題学習の日常行動への効果 −基礎的行動 の促進とその日常行動への般化を通して− 高橋和明 (兵庫教育大)

(2)音声言語のない重度知的障害児における要求伝達行動の形成 河津洋三  (兵庫教育大)

(3)自閉症生徒における飲食店への就労指導 井上暁子 (のじぎく療育セ ンター)  井上雅彦(兵庫教育大)

(4)発達遅滞児における課題分析と機能査定による要求言語行動の形成 − 行動連鎖の観点からの検討−  大橋隆史 (上越教育大)

(5)発達遅滞児における応答誘発表現から情報要求表現への機能移行に関す る方法の検討 和史朗(上越教育大)

(6)保育場面において不適切行動をおこしている発達遅滞児に対する援助方 法の検討 堀田史朗(上越教育大)

(7)刺激等価性と条件性弁別 ーCAIの利用を踏まえてー 清水裕文 (明 星大学)

(8)指示理解課題 −指示を聞く、指示に従う− 植田いく子 (明星大学)

(9)自閉症児における生活管理技能に関する研究 大石幸司 (筑波大学)

(10)条件性弁別の獲得について 野呂文行 (筑波大学)


サンフランシスコへ行こう!

第22回国際行動分析学会の案内

 来年の国際行動分析学会、通称ABA(アバ)はサンフランシスコのマリオッ トホテルで5月24日(金)から28日(火)までの5日間にわたって開催さ れます。初日はワークショップのみです。発表の申し込みは郵送で11月1日 までに必着。ただし外国からの申し込みには多少の猶予があってファックスか e-mailでも申し込めます(私の霊感では11月半ばまでならセーフ)。

 参加費は、昨年、通常会員$79(早期申込みの場合。遅れると$99)、学生会 員$35(同、$45)でした。ちなみに会費は年間$90、学生は$35です。また、ホ テルの滞在費は、これも昨年ですが、一部屋$107でした。この料金も学会料金 で、〆切と部屋数に制限がありますから、早め早めに手をうつことが肝心です。 通常料金でこのあたりのホテルに泊まると一泊$200は下らないと思いますから。

 それから学生だと会場でボランティアとして働くこともできます。働いた時 間によって参加費や会費などを割り引いてくれます。他の学生と交流する機会 にもなるのでおススメです。

 学生は多いときには6人で1つの部屋をとったりします。こうすれば宿泊代 は全日程参加しても$100以下になります。サンフランシスコだったら安い航空 券を買えばおそらく8万円以下で見つかるでしょうから、少しボランティアを すれば13万円ほどでABAを楽しみ、サンフランシスコを楽しむことができ るでしょう(私の推薦はもちろんチャイナタウンです。$4あれば腹一杯にな ります)。

 ABAには世界中から1500人以上の行動分析家が集まります。去年の数字を みると、ポスター発表が480件、口頭発表が145件、招待講演が18件、シンポジ ウムが157件、ワークショップが26件ありました。ホテル中、いたるところで 行動分析家にであいます。有名人にも会って話ができます。もちろん、自分の 研究を世界に向けて発信することができます。


行動分析学 on インターネット


近頃、過熱気味のインターネットですが、ニフティの行動分析学フォーラムで、 中山照章さんという方が、行動分析学のホームページについてレポートして下 さっているので、許可を得て、その内容をここに転記します。

インターネットの行動分析学のホームページを見つけました。  名前が Behavior Analysis」とそのものズバリです。 URLは 「http://www.coedu.usf.edu/behavior.html」です。 内容は以下の通り。 ● ABA's Behavior Analysis FTP site at The University of Wisconsin. ● Journal of Behavior Analysis and Therapy (JBAT). ●The University of Rochester Department of Environmental Medicine ●Experimental Analysis of Behavior at Auburn University. ●The Society for Quantitative Analyses of Behavior (SQAB). ●SouthEastern Behavior Analysis Center. 面白そうなのが、Random Research Question Generator です。「このツールは私達皆が待ち望んでいたものだ! あんたは自分で見なきゃ ね・・・」 なんて書いてあります。私はまだ見ていません。  それから、 スキ ナー箱の中にハトがいるQuicktimeMovie画像があります。 「shaping left turns」というタイトルがあります。動かしてみると、 ハトが左回りで1回転す るとエサが出るというシェイピングをしているようです。「この動画を見てコ メントを下さい」と書いてあります。 その外には、 関連情報として、他の心 理学関係のホームページへのリンクが8個あります。 Journal of Behavior Analysis and Therapy (JBAT)を見てみました。 「これは、行動分析学の electronic journalである。 1995年8月末にthe First issueが出るぞ」という ことです。で、各分野の編集者を集めて編集するようです。ハトが留まってい る宇宙ステーション とシャトルのカラフルな絵が先頭ページにあってなかな か綺麗です。 中山 照章(富士通SSL)

私もちらりと覗いてみましたが、JABAやJEABのページなどもあり、な かなか面白かったです。

現時点では「http://www.coedu.usf.edu/behavior/」でつながるようになって いますがインターネットでは各々のサイトの事情でちょくちょくアドレスが変 わりますから、うまく接続できなかったら連絡下さい。 ハトのシェイピング の動画は短じかすぎて期待はずれでしたが、Random Research Question Generatorは、ギャグかと思ったら、けっこうマジメな研究課題もでてきて、 ヘーッツという感じです。

WWWと行動分析学に興味のある人はぜひ一度ネットサーフしてみてくださ い(編)。



ノーステキサス大学で応用行動分析を勉強しよう!

夏休み海外短期留学のご案内


 今年の年次大会懇親会で報告された通り、1994年の夏休みには、行動分析学 のメッカ、ウェスタンミシガン大学で開講されたR.M.マロット教授による「応 用行動分析学」のコース(PSY665)を、武藤崇(筑波大学)、清水由紀(駒澤 大学)、植田郁子(明星大学)、山岸直基(駒澤大学)の4君が履修されまし た。引き続き、1995年には、遠藤清香(慶應義塾大学)、野口景子(駒澤大学)、 高木秀人(岡山大学)の3君が参加しております。

 この実績を踏まえ、今年度の国際行動分析学会(ABA)年次大会終了後に行 われた国際委員会の席上で、志ある日本人学生諸君の科目履修の受け入れを打 診したところ、さっそくに、ノーステキサス大学のS.グレン教授から、受け入 れの申し込みが得られました。グレン教授はABAの会長も努めた気鋭の女性研 究者であります。

 詳細については、現在なお交渉中ですが、関心をお持ちの学生諸君は、杉山 尚子(慶應義塾大学非常勤講師)まで、ご連絡下さい。

担当者:S.グレン  
科 目:応用行動分析学  
対象者:大学院生(学部生も相談に応じます)
教科書:L. Keith Miller.  (1980)
             Principles of everyday behavior analysis, 2nd ed.
開講日:96年7月24日より8月7日
費 用:渡航費は約17万円、学費は未定、寮費は$9.5/日。
問合先:杉山尚子(電話/FAX  03-3941-5972、
        電子メールVYB07672@niftyserve.or.jp)

編集後記

  • J-ABAとハイフン入りで書いてジェイ-アバと読ませるのは、もともと オハイオ州立大学のビル・ヒュワード教授のアイディアだったそうです。JA BA(ジャバ)だとJournal of Applied Behavior Analysisと区別がつかない からですが、なかなかどうして格好いい名前ではありませんか?さっそくいた だいてしまいました。何だか女性ファッション雑誌あるいは新型モビルアーマー みたいで気に入ってます(島)。

  • ・編集局ではジェイ-アバの編集と発送を手伝ってくれる有志を募集して います。特に校正作業が得意な方、大歓迎です。思い立ったら吉日といいます。 さっそく今日にでも連絡下さい(編)。


    記事の募集

     J-ABAニューズでは会員の皆様からの記事を募集しています。研究室や施設 の紹介、用語についての意見、学会に対する提案や批判、求人求職情報、イベ ントや企画の案内、ギャクやジョーク、その他まじめな討論など、行動分析学 研究にはもったいなくて載せられない記事を期待します。原稿はテキストファ イルの形式で、電子メールかフロッピー(DOS/Mac)により編集局までお送り 下さい。2000字程度を目安にし、本紙1頁におさまるように考えていただけれ ば結構です。


    J-ABAニューズ編集局
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